腎臓病




 はじめに国民病として広く認識された慢性腎臓病(CKD)ヘの対策、早期発見、早期治療とともに、予防の観点から職場や地域での健診とその後の健康指導が繰り広げられている。
 糖尿病、高血圧、メタボリック症候群などCKDの母体となる疾患の予防、発症したCKDへの病診・専門医とかかりつけ医の連携を介した早期からの適切な介入の効果が、 どのように表れてくるのかが注目される。 2O1O年の臓器移植法改正により、家族の同意による脳死臓器移植は順調にスタート腎移植が本当に増加すれば 末期腎不全医療にも大きな影響を及ぼす。今後の献腎移植の伸びが強く期待されている。(秋謬忠男)

1.CKD対策とその成果
 日本の慢性腎臓病対策協議会を中心に学会、医師会、行政、マスコミを巻き込んで普及啓発を進めてきたCKD対策は現在なおその途上にある。 久山町研究からCKDの有病率を見るとCKD全体としては男性では増え続けているものの,女性では頭うち傾向にあり、これは65歳以上の高齢者と 65歳未満の非高齢者で同様の傾向であった。
一方,Stage3〜5の進行したCKD患者に限定すると、性・年齢を問わず増加傾向にあり、年齢で補正しても高血圧治療を行っていない男性や高血圧のない 男性患者で増加が顕著で、血圧管理のみならず、メタボリック症候群など危険因子に対する一層の対応の必要性が示された。
 一方で、透析や腎臓移植を要する末期腎不全(ESRD)患者数の推移には発生の抑制傾向という興味深い報告が認められる。2009年の我が国の透析導入患者数は 3万7566名と、2008年に比べ614名減少した.透祈導入患者が本当に減少、あるいは頭打ちになったか否かの判断には、なお今後数年の経過を見る必要があるが、 米国では移植患者を含めたESRDの新規発生率は2007年、2008年と続けて減少しており、伸び率で見ると2002年以降ほぼ0で推移している発展途上国では ESRDは爆発的に増加しているが、先進国におけるこうした現象がCKD対策の成果を示唆するものであるか、今後の推移が注目される。
 CKDの診断基準の妥当性については、住民コホートのメタアナリシスでも、糸球体濾過過量(GFR)の低下やクレアチニンで補正した尿中微量アルブミン排泄率 (ACR)の増加は全死亡のリスクを増大させることが示された.この報告ではGFR95ml/分/1.73m以上の住民に比し、GFR60では18%,30では 57%,15ml/分/1.73mでは314%全死亡のリスクは増加し、ACRでも10mg/gを越えると20%以下ACR増加とともに倍数的に増加し, 心血管死も尿蛋白定性試験の陽性度に応じ増加したという。
 CKD患者については、予後を予測する上で、蛋白尿が大きな意義を持つことが大規模スタディで報告された.約92万人のカナダのコホートの予後を検討したこの報告では、 全死亡、腎死ともGFRの低下に応じて増加するものの、蛋白尿の程度で層別すると、いずれのGFRでも蛋白尿に応じてリスクは増加し、この現象は心血管死についても 同様であった。蛋白尿が予後の悪化を予知する上で鋭敏な指標となることから、従来のCKDの病期分類についても蛋白尿の有無やGFR45/ml/分/1.73mを 考慮した新たな基準の検肘が進んでいる。CKDの予後にうつ病が関連することも報告された。
 CKDの治療については従来のレニン・アンジオテンシン((RA)系限害薬に加え、その他薬剤の併用療法についても検討が加えられ、心血管病変(CVD)を合併した 高血圧患者の腎保護には、カルシウム桔抗薬の併用がサイアザイド系利尿薬の併用に比し有用である、などの成績が報告された。また、ビタミンDアナログである パリカルシトールに2型糖尿病性腎症患者のACR抑制作用があること,新たに開発されたantioxdant inframmation modulatorに糖尿病性腎症患者で 腎機能改善効効果が見られることなどが報告された。CKD患者のCVDに対する脂質低下の効果については、スタチンにエゼチミブを併用した強力なLDLの抑制が 心血管予後を改善することが示された(SHARP sutudy)。
 腎性貧血治療では、我が国でも長時間作用型の赤血球造血刺激因子製剤が発売され、国際水準の貧血治療が可能となった。

2.IgA腎症
 IgA腎症は我が国の原発性慢性糸球体腎炎の30-40%を占め、20年以上の経過で約40%がESRDに至る.今日IgA腎症の治療ではは抗血小板薬、RA系阻害薬、 ステロイドなどが用いられるが、標準的な治療法は確立されていない。2001年にHottaらが後ろ向き研究でIgA腎症に対する扁桃摘出術とステロイドパルス療法を組み合わせた 治療が約60%の症例で尿所見を正常化しIgA腎症を寛解に導くと報告して以来、我が国では扁摘・ステロイドパルス療法を行う施設が年々増加している。2008年には randomaizud contllold traal(RCT)でわないがらも 前向き研究で、扁摘・ステロイドパルス療法群ではステロイドパルス療法単独群よりも蛋白尿消失効果が6倍高いこと、 また病理組織学的にはメサンギウム増殖の改善を見たことが報告された,しかし扁摘・ステロイードパルス療法の評価については、ステロイドパルス療法単独で蛋白尿抑制効果と 腎機能保持効果があることから,RCTによる検討が不可欠とされ、現在、厚生労働省進行性腎障害に関する調査研究班IgA腎症分科会を中心としたRCT、「IgA腎症に対する 扁桃摘出術とステロイドバルス療法の有効性に関ゆする多施設共同研究」が進行中である。
 IgA腎症と急性上気道炎との関連、IgA粘膜膜免疫応答における扁桃の意義、そして我が国からの扁摘・ステロイドパルス療法の有用性に関する報告などから、扁桃の役割と 扁摘療法が改めて注目を集めている。米国のMariottiらは小児IgA腎症における扇摘療法の効果について後ろ向きに検討してその有効性を報告し、我が国の扁摘療法と 長期予後の後ろ向きの検討でも、扁摘群は腎生存率90%に対し非扁摘群は64%と扁摘の意義が示されている.一方でPiccoliらの報告では扁摘療法の効果について 20年以上の長期予後を後ろ向きにCKDStage1,2からCKDStage3以上への進行率で検討した結果、扁摘群と非扁摘群に差を認めず、またCoppoはIgA腎症の病態の 立場から扁摘単独によるIgA粘膜免疫の是正については疑問を呈している。
IgA腎症に対する扁摘療法の効果については、病態にどのように影響するのか、ステロイド(ステロイドパルス療法を含む)あるいは免疫抑制薬との併用で有効となるのか、 単独ではどうかなどが、それぞれの臨床研究における症例の治療内容、重症度-観察期間で影響を受けることが予想される.この点、最近のメタアナリシスでは、扁摘は ステロイド療法との併用で寛解率を増し良好な長期予後をもたらすとしている。
 ステロイド療法の効果に関する研究では、MannoらはACE阻害薬(ラミプリル)にステロイドを6カ月間併用する群とラミプリル単独群の長期予後を検討したRCTで、 併用群は単独群に比して有意に腎障害の進行を抑制したと報告している。そのほか、免疫抑制薬とステロイドとの併用や新規薬剤の導入による種々の薬物療法の研究が 活発に行われている。しかしながら、扁摘・ステロイドパルス療法を含め、RCTによる結論が得られておらず、未だ標準的治療法が確立されていないのが現状である。 IgA腎症の発症機序解明へのアプローチとともに標準的治療法の確立に向けてよリエピデンスレベルの高い治療研究の成果が求められている。

3.ネフローゼ症候群
 1.診断の進歩
 微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome;MCNS)と巣状糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerrosis;FSGS)は、双方ともに 大量の蛋白尿で発症するネフローゼ症候群の代表的疾患である。鑑別には腎生検が必須であるが、FSGSに特徴的な組織学的変化は一部の糸球体にのみ限局するため、 このような変化を認める部位が腎生検で採取できない場合、診断に苦慮することもしばしばある。この二つの疾患の新たな相違点が報告された。
 B細胞の表面に発現し、活性化に関与する分子C820は,糸球体腎炎の動物モデルやヒトのループス腎炎において、糸球体足突起細胞にも発現していることが明らかになり、 CD80と足突起細胞障害との関連が示唆されていた。
Garinらは、MCNS再発の患者とFSGS患者の尿中CD80を測定した結果、尿中CD80はMCNSの患者でのみ上昇を認め、FSGSでは認めなかったことを報告している。 さらに、MCNSの腎生検組織ではCD80が糸球体足突起細胞に発現していたご一れらの結果から、尿中CD80の測定、糸球体足突起細胞におけるCD80の発現が両疾患の 鑑別に有効な手段となることが期待できる。
 2.治療の進歩
6カ月以上ステロイド、免疫抑制薬による治療を行っても寛解に至らない難治性ネフローゼ症候群に対する治療が重要な課題であり、少数例ではあるが、これらの治療成績が 報告されている。
B細胞の表面に主に発現しているCD20に対する生物製剤リッキシマブは、我が国においてはネフローゼ症候群に対する保険適用はないが、特発性膜性腎症 (idiopatuc membranaus nephrapaty;IMN,FSGS,MCNSなどの難治症例を中心に、主に欧米において数年来その治療効果が注目されている。
リッキシマブはステロイド抵抗性やステロイド依存のIMN症例に対して有効であったとの報告があり、長期の寛解維持にも効果が期待できることが学会報告されている。 難治例のFSGS,MCNSに対しても、多くの有効例が報告されているものの、症例報告は有効例に偏る傾向があるため、これらの疾患に対するリッキシマブの有効性には さらなる検討が必要である。
リッキシマブのほかにもカルシニューリン阻害薬、ミコフェノール酸モフェチルなどを使用した多くの報告がある。しかし、報告のほとんどは症例数が少なく、未だエビデンスには至っていない。 大規模臨床試験を行い、治療反応性の指標を明らかにし、副作用を含めた有効性を見極めることが新しい治療法の開発に不可欠であろう。

4.IgG4関連腎症
自己免疫性膵炎(autoimmnune pancreatitis ;AIP)
 1961年にフランスのSarlesらが高rグロブリン血症を伴うscrelosing Panceratitisとして報告したのが発となる。
2001年にHamanoおらがAIPとIgG4の関連を指摘して以来、我が国を中心に研究が行われ、血清IgG4高値と組織中のIgG4陽性形質細胞浸潤がAIP発症に 関連していることが認識されるようになった。以後AIPの膵外病変も多く報告され、膵外臓器でもリンパ球、IgG4陽性形質細胞浸潤、線維化を認のることが明らかになっている。
現在では、ミクリッツ病、キュットナー腫瘍、自己免疫性下垂体炎、リーデル甲状腺炎、間質性肺炎、AIP都,硬化性胆管炎、間質性腎炎、後腹膜線維症、前立腺炎、 炎症性大動脈瘤、冠動脈腫瘤性病変、炎症性偽腫瘍などがIgG4の関連疾患として認識されている。IgG4関連腎症は、尿細管間質に多数のリンパ球、IgG4陽性形質細胞没潤、 線維化を認める間質性腎炎であり、AIPや後腹膜線錐症など、他のIgG4関連疾患を高率に合併する.しかし、AIP非合併例ではtubrointerstitial(TIN)と 診断され見過ごされる症例も少なくない。最近、Saeki.らは153人のIgG4関連疾患における.腎生検にて証明されたIgG4関連腎症23症例の臨床病理学的な特徴を 報告している。腎組織学的特徴は形質細胞優位で時に好酸球浸潤を伴ったTINで、すべての症例でIgG4陽性形質細胞浸潤が中等度以上見られた。血清IgG4は 測定された22症例すペてで高値であり、1例を除くすべての症例で何らかの腎外IgG4関連疾患を伴っていたが、そのうち13例はAIPの合併は認めなかった。画像では 腎腫大か腎腫痛を伴っており、高グロブリン血症、低補体血症、腎外炎症性腫痛の既往が多く見られた。
一方、IgG4関連腎症でどれだけIgG4の免疫粗織染色が有用かは不明である。AIPにおける中等度以上のIgG4陽性形質細胞浸潤はわずか72%であり、IgG4の免疫組織 染色単独で診断するのは困難である。また、Saekiらの報告は血清、組織学的にもIgG4高値例のみを選択しているが、自己免疫疾患に合併したTINでIgG4の一 低値例の診断に関しても今後の課題と言えよう.さらにIgG4の高関連腎症と膜性腎症(MN)の合併例が散見されるが、MNもIgG4が関与する糸球体疾患であり、 両者の関連性につい(も大変興味深い。以上のように、IgG4の関連腎症の病態は依然不明な点も多いが、Saekiのらの報告により臨床病理学的な側面がより浮き彫りになってきている。 また、IgG4の関連腎症は世界でも独立した疾患群として認識されできており、今回SaekiらはIgG4-related TNFという疾患名を新たに提唱している。

5.糖尿病牲腎症
 1.糖尿病性腎症の病因
 過去の疫学研究より糖尿病性腎症の発症・進展に特定の遺伝因子が関係することは明らかにされている。l型糖尿病患者を対象とした検討では、糖尿病性腎症の発症に細胞の分化・増生に関与するGremlinのプロモーター遺伝子(GREMI)およびnitric oxide synshase3の遺伝子多型が関連することが報告された。  高血糖は糖尿病性腎症の発症・進展の成因であることは既知の事実である。メサンギウムや尿細管細胞では高血糖が細胞内のJAK/STATを活性化し、炎症性サイトカイン産生の増強や細胞の分化・増生を介し腎障害を進展させることが報告されている。最近、メサンギウムや尿細管細胞でJAK/STATの活性化時に負の調節因子であるSupperssros 0f cytokinine signaling蛋白の発現が増強し、SOCS蛋白がJAK/STAT活性化からの糖尿病性腎症の進展を減弱させる結果が報告されたお  2.糖尿尿病性腎症の治療
 糖尿病性腎症の治療はRA系阻害薬による治療が主流であるが、最近、RCTによりピタミンD製剤の蛋白尿減少効果が報告された(VITAL study).この検討結果では、 プラセボ投与患者に比し、ビタミンD製剤(パリカルシトールlugあるいは2ug)投与患者で有意にACRが減少した。
 2008年に報告された2型糖尿病患者を対象とした大規模ランダム化試験(ACCORD試験)では、厳格な血糖管理は心血管イベントあるいは死亡を抑制しない結果が 報告された。2010年にはACCORD試験の2次群析結果が報告され、厳格な血糖管理の細小血管病変(透析導入や腎移植、クレアチニンの増加、糖尿病性網膜症に 対する複合アウトカム、あるいはそれらの合併症に神経症を加えたアウトカム)抑制効果が検討されたが、総死亡に対する結果と同様に厳格な血糖管理は必ずしも細小血管病変の イベント抑制につながらない結果であった。また、本臨床試験では血糖管理と同時に脂質あるいは血圧(120mmHg筒以下に管理)の厳格な管理が心血管イベント発症に与える 影響についても検討されたが、いずれもイベント抑制にはつながらない結果であった。しかし、これらの結果は糖尿病の罹患病期間や背景因子など様々な因子の影響を十分に 考慮して解釈されるべきであろう。
 高ホモシスチン血症は糖尿病性腎症患者におけるCVD発症のリスクと考えられ、ホモシスチン減少効果があるビタミンB製剤(葉酸、B6 B12)による介入試験結果が報告された。 この臨床試験では同製剤介入による糖尿病性腎症の進行抑制効果や複合心血管エンドボイント、死亡に対する有効性が検討されたが、ビタミンB製剤投与群で腎症の 進行抑制は認められず、逆に複合心血管エンドボインが増加する結果であった。
このように、糖尿病性野症については新しい治療手段の報告は見られたものの、腎症進行や心血管イベントの制御には、なお多くの課題が示された。(本田浩こ

6.賢疾恵と高血圧治療
 高血圧がCKDとCVDの危険因子であることは周知の事実である。しかし、厳格な血圧管理は腎疾患の進展を抑制しないとの論文が報告された。.アフリカ系米国人1094例を 対象とし、厳格管理群(平均血圧I3O/78mmHg)と標準管理群(141/86mmHg)ヘ無作為に割り付け、8〜12年間観察した本試験では、血清クレアチニン倍加、 ESRDの出現、死亡のいずれも群間で有意差は認められなかった。しかし、開始時に尿蛋白/クレアテニン比が0.22g/gCrを超える患者では、厳格な管理が予後改善に つながる可能性が示された。本試験結果が日本人にも適応できるかは疑問が残るが、我が国でも高齢化が進み、腎硬化症による腎障害の頻度が増加していることから、 糸球体虚血を主体とした腎障害の適正な管理法の究明は今後の課題と言えよう。
腎保護の観点からその中心を担っているのがRA系阻害薬である。RA系抑制は腎保護のみならずCVDリスクの回避にも重要である。しかし、ONTARGET試験幻で 示されたように、ACE阻害薬とARBの併用に腎機能保持効果は証明されず、逆に有害事象が増加したことから、CVDリスクの軽減には両者の併用効果になお期待が 寄せられているものの、併用に単独投与を超える明らかなメリットは見出せないのが現状である。
新規のRA系阻害薬であるdirected renin inhibiter(DRI)アリスキレンはRA系阻害薬の中では唯一、血清レニン活性を低下させることができる。単独での臓器保護作用 以外に引、ARB(ロサルタン)との併用で2型糖尿病患者の腎保護に相加効果を示すことが報告されている(AVOID試験)。本剤はイルベサルタンとの併用でも 2型糖尿病患者.のACRを減少させ、RA系上流でのブロックが他のRA系阻害薬との併用で腎保護効果を増す可能性が示唆されている。我が国でも、 進行した糖尿病性腎症患者でGFRを増加させたり酸化的ストレスを減少させたなどのデータが報告されている。
 CVDを合併した高血圧患者に対し、ACE阻害薬にアムロジピンあるいはサイアザイド系利尿薬を併用してCKDの進行を観察したACCOMPLISH試験では、 アムロジピン群で進行のHRは0.52と大きく減少し、RA系阻害薬への併用治療としてのカルシウム桔抗薬の有用性が証明された。(渡辺誠)

7.急性腎障害(AKI)
 急性腎不全(acute renal failuer:ARF)から急性腎障害(Acute kidny injurry:AKI)への概念の変遷は、疾患の新しい定義と病期分類(RlFLE基準、AKIN分類)の 普及を経て急速な展開を遂げている。
人口の高齢化、生活習慣病を含む疾病構造の変化、侵襲度高い高度医療の普及などのARFからAKIへのバラダイムシフトの背景を明示する論文は2010年も多数報告された。 推算GFR(eGFR)の低下や蛋白尿の存在はAKIの発症を促進、ないし予後の悪化と独立して関連する要因であることが複数の大規模住民コホートで明らかにされお劇、 同様に蛋白尿の存在は冠動脈パイパス手術後のAKl発症を促進することも示された。
 また、AKl患者の予後規定因子を検討したメタ解析では、多くの規定因子の中で、血清アルブミンの低下が最も鋭敏な独立した因子であること(lg/dlの低下で死亡は 47%上昇)が報告された.AKIの死亡率は高く、回復後の死亡率やCKDへの移行率も非常に高率である。予後の向上には早期診断が重要で、鑑別・予後診断の 観点からも、多くのsurrogate markerの探索が精力的に進められている。そのうちの一つ、尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)は2010年に体外診断用医薬品 として承認された的。今後もより診断価値の高いヨ與r¢Mが模索されよう。
 予防に関しては、輪液による脱水防止のほか、造影剤腎症にNアセチルシスティン(NAC)の効果が期待されるが、否定する報告も多い。輪液・利尿薬・カテコラミン等の 保存的治療には確実な手段はなく、AKIの重症化と多様化に伴い腎機能代行療法(renal replacement therpyが重要な地位を占めている。 RRTには腎機能の代行のみならず、炎症性サイトカインなどの臓器障害メディエーターの除去効果が期待されるが,これらを含めた治療開始のタイミングや、 RRTの技法・浄化量・抗凝固薬・透析膜の選択に関してのコンセンサスは現在えられていない 今後,Kidmey Disease Improving Global Outcomm(KDIGO))で 作成されているAKIに対する国際的診療ガイドラインの実用化が期待される。(加藤徳介)

8.透析医療の現況と進歩
 2009年の透析導入患者数は前年より減少したものの、透析患者全体としては増加を示し、患者総数は29万1000人と30万人の大台に迫りつつある。 糖尿病性腎症や腎硬化症側の増加など、疾病構造や高齢化の影響は依然患者数の増加と加齢の主因であるが、粗死亡率や短期生存率に悪化は認められていない。 患者の長期生存と腎移植の停滞から20年以上透析療法下にある患者は2万人を、10年以上は7万人を超えるなど、長期透析患者数は増加を続けている。
 腹膜透析(CAPD)患者の総数は約1万人と大きな変化はないが、CAPD開始後l年以内に血液透析に移行したり、CAPDと血液透析を併用する患者も多数存在 することが初めて明らかとなった。CAPDと血液透析の併用療法には保険適用が認められ、今後も増加が予想される。
社会復帰をめざす透析患者の治療手段として在宅血液透析が見直され、施行患者は200人を突破した。自由な透析スケジュールの設定と十分な透析回数・時間の確保が 良好な予後と密接に関連している可能性が以下の報告からも強く推測される。245名の維持透祈患者を対象に、週6回と週3回の血液透析を比較したRCTが、 1年間北米で実施された。その結果、週6回透析で死亡と左室肥大のリスクが0.61、死亡とQOL低下のリスクが0.70と有意に減少し、血清アルブミンやPの管理も 向上するなど、頻回透析が患者日の予後を著明に向上させることが明らかにされた。
一方、透析導入時期については、従来腎機能の保たれたより早期の導入が予後改善につながると考えられてきた。800例の導入患者を対象にeGFR 10-14ml/分/1.73mの 早期導入群と5〜7ml/分/1.73mの晩期導入群で予後を比較したオーストラリア.ニュージーランドのRCTでは、全死亡、心血管・感染イベントなどの転帰に差は見られず、 早期透析開始のメリットは証明されなかった。実際の透析開始時のeGFRの差は約2ml/分/1.73と大差は見られない、などの批判はあるが、今後の透析導入基準を考える上で 重要な成績と考えられる。
 合併症管理では、赤血球造血刺激薬(ESA)治療による貧血改善の維持レベルについて2009年に報告されたTREAT試験の結果を基に、活発な議論が展開された。 Hg13g/dlを目標とする治療にメリットは認められず、逆に脳卒中の発症が増加したことから、FDAは諮問委員会を招集し、適応、使用法についての改定案を提示したが、 いずれも否決された。今後どのような添付文書の改定がなされるかが注目される。  二次性副甲状腺機能充進症については従来のCa、P,ビタミンD代謝異常に加えP利尿因子として同定されたfibrobrast groth factor.23(FGF23)や、そのコレセプター であるklothoの関与が注目された。二次性副甲状腺機能充進症患者の副甲状腺ではFGF受容体1Cやklothoの発現が低下しており、細胞増殖が進展するほど発現低下が 顕著となる.旧。一方、副甲状腺ホルモン(PTH)が骨でのFGF23産生を直接促進することから、PTHとFGF23の間にフィードバックループが形成されている.またklothoによる FGF23とは独立した、Na\K−ATPaseを介したPTH分泌機構も二次性副甲状腺機能亢進症に関与している可能性も示されている。さらにFGF23の生理作用を 中和抗体により阻害することによりPTHが低下することから、FGF23は二次性副甲状腺機能充進症発症に深く関与している可能性がある。これら分子機能の解明を基に、 新たな二次性副甲状腺機能充進症治療薬の開発が期待される。(溝渕正英)

9.腎臓移植
 2009年の腎移植件数は1312例と初めて1300例を超えた.その内訳は生体腎移植が1123例と増加したが、献腎移植は189例であり依然低迷している。
 2010年7月に改正された臓器移植法にはこうした献腎移植低迷の打破が期待され、事実改正後には6カ月に満たない年末までに28例の家族同意による脳死移植が実施され 順調なスタートを切った。しかし、逆に心停止後の献腎移植が停滞し、献腎移植総数はほぼ横ばいに推移している。
 献腎移植の低迷から、ABO不適合腎移植は生体腎移植を拡大する手段として発展を遂げてきた。リッキシマブ(抗CD20抗体)の応用はABO不適合腎移植の長期予後を 改善する新たな手段として注目されている。WilpertらはABO不適合腎移植患者に対するリッキシマブと抗原特異的免疫吸着法の併用効果を検討し、 同療法によりABO適合腎移植患者と同等の生着率の得られることを報告している。
HLA抗体陽性症例のantiboday-medated rejection門の(AMR)は予後不良で、血奬交換、rグロブリン療法、リッキシマブなどによる複合的な治療が試みられている。 最近、AMRの治療薬としてプロテオゾーム阻害薬であるボルテゾミドの有効性が示された。しかし腎障害が進行(クレアチニン3・0mg/dl以上、蛋白尿1g/日以上)してからの 介入では有効性が減弱するなど、介入時期や投与方法などにはさらなる検討が必要である。 また、移植前にAMRのリスクを予知することは成着率を向上させる上で臨床上重要な事項である。最近、ドナー特異的HLA抗体(class-T抗体)の上昇がAMRの発症や 腎機能低下と関連し、移植前に同抗体を評価することでAMR発症を予測できる可能性が報告された。今後の研究の発展が期待される。

日本医師会雑誌 より
2011,5,16





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