肝臓ガンの話


 平成10年7月16日 田方医療センター講演会の抜粋

 本日は前回の松本先生の癌の総論に続く癌の各論として肝臓ガンをテーマに話をしろとのことですが,
 癌の原因がわかるくらいなら,私はノーベル賞をもらっているわけです.
 したがって,発癌の原因はいまだに仮説の域を出ておりませんので,これからのお話しは確定した
 ものではなく,仮説の1つであるとご理解ください.
 また,話を進める都合上,遺伝子の話をしなければなりませんが,大変解かりにくい部分なので
 決して無理して理解しようと思わないで軽く聞き流してください.
1)厚生省の主要死因別に見た死亡率の年次推移ですが,近年死亡原因の1位は癌であり
  増加傾向にあります.
2)死亡順位ですが悪性新生物の死亡率が28.5%であり,お年よりの4人に1りはかならず癌で
  なくなるわけですのでもはや,乱暴ないいかたですが癌は病気というよりも寿命の内と
  考えたほうがよいのかもしれません.
3)部位別に見た悪性新生物の死亡率の年次推移ですが肝癌は現在は第3位に増加してきております.
  胆道癌も増加してきております.
  東大の小俣先生によりますと毎年肝硬変の6−7%が肝臓癌になると報告しておりますので,
  現在肝硬変患者が30万人ぐらいおりますので,毎年20,000人くらい新しく肝臓癌が
  発症していることになります.いったん肝癌になったら治療をしなければ6カ月で死亡しますし,
  治療をしたとしても5年生存率が20%と大変予後の悪い癌です.
4)さて,私たちは心臓や胃とちがい肝臓はそこにあるという自覚することはありません,
  肝臓は体の中では一番大きい臓器であり,多少細胞が壊れても,症状が出にくく,
  また再生力が旺盛な臓器で肝臓の3分の1を切取ってもまた再生する臓器であります,
  したがって手術で部分切除ができるわけです,また肝臓の中には知覚神経がないので,
  癌ができても痛むわけではないので,症状が出にくく,それゆえ肝臓は沈黙の臓器と
  いわれてきました.話が分かりやすいように最初に肝臓の話をします.
肝臓の位置
 肝臓は上腹部で右の横隔膜の下にあり,上には肺,左下には胃,右下には胆嚢,右大腸に接しています.
 肝臓は,人体中最大の腺組織で,いろいろな働きをしています.
 肝臓は肉眼的には暗褐色で手で触れるとくぼむ硬さです,ちょうどレバさしと同じです.
 重さは1Kg前後ですので体重の1/50にあたる重い臓器です,肝臓は2500億個以上の細胞で
 できています.
5)肝臓を切ってみますとスライドのように蜂の巣様に見えます,これが肝臓の一つの単位で
  肝小葉と言いい1固まりが0.8mmぐらいで50万個の細胞でできおり,これが50万個集まり
  肝臓が形成されます.不思議な事に,どこをどう切っても金太郎飴のように同じかっこを
  しています.これが肝臓の秘密でありまして,この1つ1つの細胞が同時に500種類以上の化学反応を
  行っております.
  立体的に考えますと,つまりブドウの房を考えてください.ブドウの房をどう切っても
  円形の実が出てくるのと同じです.この房が8個の合わさって,肝臓の形ができているのです.
 また,肝臓が他臓器と違う点はほかの臓器は動脈で養われ静脈で血液を返すわけですが,
 肝臓にはさらに門脈と言う血管があり腸からの栄養を集め肝臓に送る役割をしております,
 この血液が肝臓の血流の半分をしめます.この大量の血液がちゃんと肝臓に入れないと色々病気が
 起こります.肝臓病の症状を理解するには肝臓の働きを理解しておくと分かりやすいです,
 つまりその機能が障害されたものが症状としてあらわれるわけです.
肝臓の主な働き
1 代謝機能
     (糖質,脂質,蛋白)
     (ビクミン,ホルモン)
2 血液凝固機能
3 胆汁産生
4 解毒作用
肝臓の機能はスライドのごとくですので肝障害が起こればそれそれが機能しなくなるための
症状がでるわけです.
 それでは肝臓病の発見にはどのような検査がされているかをお話し致します
肝臓病における診察と検査
1 問診
2 理学的所見
3 一般検査
4 肝機能検査
5 画像診断
6 腹腔鏡検査
7 肝生検
8 その他
 まず問診です
 つまり肝臓病を起こしやすい原因があるかどうかを聞き取るわけです.
 肝臓病の主な原因である肝炎ウイルスの感染のチャンスがあったか,輸血有無,アルコール,
 家族兄弟の肝障害の有無,薬剤を飲んだかとか聞くわけです
 つぎは 理学的所見ですが,理学所見とは見たり触って確かめた所見の事をいいます,
 黄疸,肝臓腫大,腹水,手掌紅斑などを診察します.
一般検査は採血して分かる検査です.
肝臓検査の種類
    肝細胞障害のマーカー
      GOT(AST)GTP(ALT)
      LDH5
    胆汁うつ滞のマーカー
      ALP,rGTP
    腫癌マーカー
      AFP(AFPL3)PIVKAU
 肝機能検査とはどのくらい働いているかという機能をみる検査でICGがあります
画像診断には US,CT,MRI,Angio,肝シンチなどが行われます
 腹腔鏡検査腹部に内視鏡をいれる検査ですがは最近はあまり行われなくなりました
肝生検は長いはりで肝臓の一部の組織を取ってくる検査ですが,今では超音波ガイド下で
行いますので一瞬で終わります
 以上のような検査を行い肝障害が発見されます
 それでは肝臓の病気はどのようにわけられるのでしょうか,肝臓病の原因は以下ように別けられます.
肝臓病の原因
1 肝炎ウイルス
2 肝毒性物質
3 薬剤
肝障害を一番起こす薬剤は抗生物質,消炎鎮痛剤,解熱剤などがありまのす.
4 アルコール
5 肥満
 肝臓病別グラフですが肝臓病の原因です,肝臓病の80%が肝炎ウイルスにより起こり,
 まさにこのウイルスが本日の主題であります肝癌を起こすわけです.
 それではいよいよ本題の肝臓ガンですが肝細胞癌の原因となる病気はどんなものがあるでしようか,
 肝臓癌の背景病変の成因ですが,C型肝炎ウイルスに由来するものが78%,B型肝炎ウイルスに
 由来するものが16%,C型とB型を合併する物ものが2%でウイルスで起こる肝癌が96%を
 占めますので,このウイルスをやっつけることが,すなわち肝癌の予防そのものであることが
 理解されるわけです.
 しかし,ウイルスに感染すると必ず癌になるわけではありません。肝細胞癌併存肝病変のスライド
 ですが,肝臓癌になる前には肝硬変が85.2%あり肝硬変と言う時期を経過して肝臓癌になることが
 わかります,したがって,肝硬変までで病気を止めることができれば癌になりにくいと言うことが
 わかるわけです. これからの説明を分かりやすくするために肝細胞癌の特徴をのべます

肝細胞癌の特徴
1 BないしはC型肝炎ウイルスの持続感染
2 慢性肝障害の合併(85%は肝硬変)
3 多中心性発癌
4 進行癌は動脈支配
5 比較的早期より脈管浸潤
6 高度進行するまで症状に乏しい
このような特徴を理解して,いかにして肝癌を予防するかということですが,
スライドのようにリスクの高い群を管理すればよいわけです
つまりBないしはC型肝炎ウイルスの持続感染者,肝硬変患者を十分に管理して行けばよいわけで,
ほかの人は癌の心配はないと考えていただいて結構です.ただしアルコールは病気を進行させます.
それではまず,B型肝癌とC型肝癌のちがいを述べます.
B型肝炎は1969年に発見されたウイルスですので発見されてから30年くらいたちますので
いろいろな事が分かってきました.成人感染の90%以上は改善していまします.
母子感染もキャリヤー患者の9割以上は成人するころには改善し数%が慢性化するだけです.
しかし,肝硬変になってしまうと高い率で肝癌になります.
 母子感染もB型肝炎ワクチンにて95%は予防することができ,対策がたてられるのでキャリアーの
お母さん方は心配されなくてよいでしょう.
 C型肝炎は1989年に発見されましたのでまだ発見されてからされてから10年足らずで,
 その研究は不十分で感染の予防すらできず,ワクチンも開発されておりません.
 C型では発病者60−80%が慢性肝炎に移行しますが母子感染,性行為による感染は皆無では
 ないが極めて低いと考えられています,しかし,感染した40%前後が肝硬変や肝癌を起こします.
 その経過は発病してから30年といわれております.癌にならない予防方法はないかということです
 慢性肝炎から肝硬変をへて肝臓癌になるわけですので.この経過を阻止するか,少なくとも経過を
 遅くすることが癌の予防となるわけです.幸い人間は200年も300年も生きられませんので,
 寿命のある間に癌がはえなければよいわけです.これまでに述べましたように.B型肝炎,
 C型肝炎の治療がすなわち癌の予防であるわけです.
 肝細胞癌の予防ですが,肝炎の治療の話をします.B型肝炎の治療にはステロイド療法,
 インターフェロンなどが主体となります.その治療効果は40%程度です
 C型肝炎ではインターフェロン療法が主体となりますが,治療効果はV型(2a)で70%.
 U型(1b)20%程度とされておりますが日本ではU型が多いため,全体では有効率は30%程度と
 考えられます.何だ,30%しか効かないんだと思われるかもしれませんが.
しかし,この30%の人は癌から免れることができるわけです.
ほかの治療法はスライドのようなものがあります.
 それでは肝臓癌の治療にはいります.
 現在マスコミで騒がれておりますが,患者さんに治療の有効性がよく説明されないままで
治療され,本当にこの治療が自分のためになったんであろうか解らないと言うこと事が最近問題と
なっております.
 そこで,癌ができたらどういう治療の選択肢があるかという話です.
 スライドのように治療を理解するのに癌の大きさで考えると分かりやすいです小肝細胞癌の治療には
 切除,エタノール注射があます結節性進行癌の治療には動脈塞栓術療法があります
高度進行癌の治療には抗ガン剤投与があります.
 大変難しい話しですが.どうして癌が起こるかという説明です.これを理解するには遺伝子の話を
 理解しなければなりませんのでまず,人間の遺伝子の話をします.
 人間の子供が人間であるためには親から子に正しく人間であるという情報が伝わらなければなりません.
 その役目を担うのが遺伝子です.
 人間は心臓,肝臓などの器官が集まってできており,その器官は細胞が集まってできており,
 その細胞の中に核がありその中に染色体があり,その中に遺伝子がありそれはDNAという物質から
 なっております.そのDNAは4つの塩基よりなります.この4つの塩基の並び方で人間が規定
 されます.このようなA,T,G,Cという4つの塩基で人間がつくられているわけですが,
 この赤ちゃんには約30億の塩基があり,その組み合わせにより15万個遺伝子があります,
 30億の塩基があってたった15万個の遺伝情報しかないというのはどういうことかと言いますと
 実際は5%ほどしか機能していないと考えられるからです.
 この細胞核のなかに染色体があ細胞分裂の際に情報を伝えるわけです,これが人間の染色体ですが,
 22対の常染色体と男か女かを決めるX,Y染色体があるわけです.人間はしたがって46の
 染色体をもつわけですがいつも顕微鏡を除けば見える訳ではなく細胞分裂の時に現れ特殊な
 染色をするとスライドの様に見えるわけです.
 それをほぐすとその中に2重ラセンのDNAがありそのDNAは4つの塩基A,T,G,Cよりなり
 これの並び方で人間が人間であることが書き込まれるのです.
 しかし,この1個の塩基の並び方が違ったために遺伝子病が起こることがあります.
 いわゆる,原因不明の病気で10人が10人同じ症状がでるような病気は遺伝子病である可能性が
 高いわけで,既に糖尿病の1部に遺伝子の異常が見つかっており,高血圧でもラットでは遺伝子異常が
 証明されております.
 さて,この遺伝子の異常が癌を起こすことが近年大腸ガンでも説明されるようになってまいりました.
 肝臓癌と遺伝子とかかわりですが.B型肝炎ではスライドのような仮説があります.
 肝細胞に取り付いた,肝炎ウイルスより細胞にウイルスの核が侵入しバラバニなり一部は宿主細胞の
 DNAに取り込まれ癌をおこす.
 しかし,この仮説には欠点があります.癌のないB型肝炎患者の肝細胞の中にウイルスDNAが
 確認されたからです.つまりB型肝炎ウイルスDNAの存在だけでは肝癌は起きないと言うことです
 第2の仮説は,ウイルスなどにより細胞がどんどん壊れますと,どんどん作り直さなければならない,
 スライドのように細胞がつくられるわけですが.
 細胞が作り過ぎられないように,抑制をかける遺伝子がP53ですが,これがうまく働かなくなり
 無制限に細胞増殖を行うようになる.これが癌の原因であると考えられています.
             (修善寺クリニック編集)